「母との関係も変えた、『会話する』活動」
認知症高齢者を楽しい会話で癒す
杉並区には、認知症の高齢者を在宅介護する家族をサポートする仕組みがあります。支援を担当するのは『認知症高齢者家族安らぎ支援員』です。秋田なつきさんは、その一員として2023年から活動を始めました。
「活動のきっかけは、母が認知症になったことです。母とうまく会話ができず、接し方に悩むようになりました。そんなとき、すぎなみ地域大学の『認知症高齢者家族安らぎ支援員講座』を知り、受講しました」
安らぎ支援員は、認知症高齢者の自宅を週に1度訪問し、毎回1時間程度本人や家族の話を聞きます。講座では、高齢者の話を聞くときの傾聴の方法などを学びました。
支援員として活動を始めてからは、さまざまな話をするために楽しみながら工夫をしているそうです。「たとえば支援するお宅に伺う際は、必ず歩いて行くことにしています。
公園などの景色を見て『こんな花が咲いていましたよ』と伝えると会話が弾みます。時につらい話を聴くこともありますが、活動時間の最後は必ず楽しい話で終わるようにしています。難しいですが、私のやりがいでもあります。最後に『もう少し話していきなさいよ』と引き止められると、うれしくなりますね」
回想法で見つけた、母の知らない顔
認知症のリハビリのひとつに『回想法』という心理療法があります。高齢者が思い出を人と分かち合い、心を癒していく療法です。秋田さんはすぎなみ地域大学修了後も、月に1度、活動の拠点となる「大宮ふれあいの家」で回想法のプログラムにボランティアとして参加しています。回想法を学習・実践する中で、秋田さん自身にも大きな変化があったと話します。
「「利用者の方とお話をするようになってから、母親の状態もある程度客観的に見られるようになりました。ある日、母と回想法で会話をしていたら『小さいころ、米軍の兵士からチョコレートをもらった』と、今まで聞いたことのない話をしてくれました。その話をするときの母の笑顔がとてもかわいらしくて。キュンとしてしまいました。母とこんな会話ができるようになって、本当に良かったです」
活動の中で、自分自身の家族との関係にも変化があったという秋田さん。今後地域活動を考える人に対しては「広く浅く」の心がけで挑戦してほしいといいます。
「年を重ねるごとに興味や関心の幅は変わってきます。今の自分に何ができるのか、広く浅く触れながら探ってみてほしいと感じます。個人的には、ひとつのことを無理して長続きさせる必要はないと思います。色々な講座を受けてみて、合わなかった場合は次にいく、でもいいと思います。そのように柔軟に、新しい出会いの機会を楽しんでほしいです」
「救命用のマウスピース」
秋田さんは『救急協力員講座』も受講し、今でも応急手当の自主研修会に参加します。不測の事態に対応できるよう、支援に向かう際は必ずマウスピースを持参します。